2026年4月・7月訪問
さつきが咲く季節に、賢島を訪れました。英虞湾を望む高台に建つ志摩観光ホテルの庭には、赤やピンクの花が咲き、歩いているだけでも心が明るくなりました。
美しいホテルはたくさんあります。
長い歴史を持つホテルもあります。
私が志摩観光ホテルにひかれるのは、その両方が一つの場所にあるからです。
戦後間もない1951年の開業から2016年のG7伊勢志摩サミットまで、建物や庭園、英虞湾の眺めの中に、今も歴史の足跡が残っています。

戦後の賢島に生まれた、本格的な洋式リゾートホテル
志摩観光ホテルが開業したのは、1951年4月3日です。
ホテルの公式クロニクルでは、戦後初の純洋式リゾートホテルとして紹介されています。
当時の賢島には、真珠の買い付けに訪れる外国人バイヤーが多く、伊勢志摩国立公園を訪れる海外からのお客様を迎えるためにも、本格的な洋式ホテルが求められていました。
穏やかな海に真珠筏が浮かぶ英虞湾の景色が、開業当時から多くの人をひきつけてきたことがうかがえます。
設計を手がけたのは、昭和を代表する建築家・村野藤吾です。
戦後の物資が乏しい時代だったため、鈴鹿にあった旧海軍施設の柱や梁を移築して建設されました。
創業時の建物は、現在のザ クラブとして残っています。


ザ クラブの館内を歩くと、太い梁や歴史年表、写真、美術品などを間近に見ることができます。
現在は主な宿泊棟ではありませんが、ここを見ずに帰るのはもったいないと感じました。
ホテルの始まりを知るためにも、時間を取ってゆっくり歩きたい建物です。



開業の年のご訪問と、庭園の御製碑
昭和天皇が志摩観光ホテルをご訪問になったのは、開業から数か月後の1951年11月でした。
庭園を散策された際、賢島の高台から望む英虞湾の景色を、とりわけ気に入られたと伝えられています。
翌年には、賢島でご覧になった植物や色づいた実を詠んだ御製を発表されました。
その歌を刻んだ碑は、今もザ クラブ前の庭園に立っています。
そばには、昭和天皇のご滞在や御製の背景を日本語と英語で紹介する説明板もあります。
御製碑の前に立ち、この場所でご覧になった景色に思いを重ねると、ホテルの歴史をぐっと身近に感じました。



開業当時の背景や昭和天皇のご訪問については、ホテルの公式クロニクルでも確認できます。
ザ クラブに残る、山崎豊子さんの机
志摩観光ホテルは、文学とも深い縁があります。
山崎豊子さんは、『華麗なる一族』などを執筆するために、たびたびこのホテルへ滞在しました。
作品の冒頭に描かれる黄昏の空気は、英虞湾の景色と深く結びついています。
ホテルの資料によると、山崎さんは太陽が水平線へ沈む瞬間を捉えるため、半地下の汽罐室の窓からも繰り返し夕日を観察したそうです。
執筆に使われた机と椅子は、現在ザ クラブに展示されています。

山崎豊子さんとホテルの関係は、公式「ホテルと文学」ページでも紹介されています。
ザ クラブに残る茶室「愚庵」
ザ クラブ2階、カフェ&ワインバー「リアン」の近くに、開業当時から残る茶室「愚庵」があります。
リアンの一部ではなく、独立した本格的な茶室です。
炉を備え、陶芸家の川喜田半泥子が名付けたとされています。
入口上の扁額も半泥子の書です。
私は入口から畳の部屋を眺め、床の間や茶道具を見ることができました。
洋式リゾートとして始まったホテルの中に、静かな日本文化の空間が残っているのが印象的でした。


茶室の由来は、ホテルの公式「茶室 愚庵」案内でも確認できます。
ザ クラブで見る、G7伊勢志摩サミットの展示
2016年5月、志摩観光ホテルはG7伊勢志摩サミットの主会場となりました。
英虞湾を背景に各国首脳が並んだ写真を、私もよく覚えています。
ザ クラブ館内には、G7伊勢志摩サミットのワーキングランチで実際に使用されたテーブルなどが展示されています。


建物と英虞湾がサミットでどのように使われたのかを知ってから眺めると、同じ景色が少し違って見えました。
詳しい背景は、ホテルの公式サミット・ガストロノミーページで確認できます。
ザ クラシック|屋上展望台から望む英虞湾
ザ クラシックは1969年に完成しました。
G7伊勢志摩サミットを前に改修され、長い歴史を感じながら、落ち着いて過ごせる建物になっています。

屋上展望台からは、複雑に入り組んだ海岸線や大小の島、真珠筏を見渡せます。
ホテルの公式案内では、午前6時から午後10時まで利用できます。時間は変更されることがあるため、宿泊時に最新情報をご確認ください。

ザ ベイスイート|夏の夕日と屋上庭園
ザ ベイスイートは2008年に開業しました。
すべての客室がスイートで、屋上庭園や館内から英虞湾の景色を楽しめます。
3つの建物の中では最も新しい建物ですが、ザ クラブまで歩けば、創業時から続くホテルの物語にも触れることができます。
私も夏の夕方、ザ ベイスイートから英虞湾を眺めました。
島々が影になり、穏やかな水面が黄金色に変わっていく時間は、今回の旅でも特に心に残っています。
この夕景を前にすると、山崎豊子さんが何度も夕日を見つめた理由が少し分かる気がしました。

G7伊勢志摩サミットの記念撮影場所
ザ ベイスイートの屋上庭園には、G7伊勢志摩サミットの公式写真にゆかりのある記念撮影場所が残っています。
英虞湾と同じ方向を向いて立つと、ニュースで見た景色と、実際のホテルの位置関係が分かりました。

宿泊者限定の館内見学ツアー
ザ クラシックとザ ベイスイート、どちらの宿泊者も、ホテルの館内見学ツアーに参加できます。
現在の公式案内では、毎日午前9時から約40分、予約不要・無料です。集合場所は、ザ クラブ2階ロビーのサミットギャラリー前です。
スタッフの説明を聞きながら、ホテルの歴史、美術品、G7サミットに関連する場所を巡ります。
説明がなければ通り過ぎてしまいそうなものに気づけるのも、このツアーの魅力です。雨天時は屋内のみの案内になります。
時間や条件は変更される可能性があります。参加前に公式の館内見学ツアー案内をご確認ください。
歴史を知ると、ホテルの見え方が変わる
戦後の物資不足の中で、旧海軍施設の部材を活用して建てられたこと。
昭和天皇が庭園から英虞湾をご覧になったこと。山崎豊子さんが夕景を見つめ、作品の世界を形づくったこと。
到着しただけでは、こうした物語はすぐには見えてきません。
私も、背景を知ってからもう一度建物や庭園を歩き、最初は見過ごしていたものに気づきました。
屋上の展望台、御製碑、茶室、山崎豊子さんの机、サミットの展示。
知れば知るほど、このホテルには幾重にも重なった歴史があると感じます。
志摩観光ホテルは、2026年4月3日に開業75周年を迎えました。
歴史だけでホテルを選ぶわけではありません。それでも、客室や料理、英虞湾の眺めに加えて、この場所が歩んできた時間を感じられることは、志摩観光ホテルならではの魅力だと思います。
本記事は、筆者の実体験と撮影写真をもとに執筆しています。読みやすさ向上のため、一部AIを補助的に活用しています。

